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札幌高等裁判所函館支部 昭和34年(ナ)1号 判決 1960年7月19日

原告 浜口幸人

被告 北海道選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「昭和三十四年四月三十日施行された函館市議会議員及び函館市長の各選挙の効力に関し原告の提起した訴願につき同年七月二十一日被告のなした訴願棄却の裁決はこれを取消す、右各選挙はいずれもこれを無効とする、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、「昭和二十四年四月三十日函館市議会議員及び函館市長の各選挙が施行されたが右各選挙は次の理由により無効である。すなわち原告は昭和三十年四月三十日施行された函館市議会議員及び函館市長の各選挙の効力に関し、選挙人として、異議の申立及び訴願を経て、札幌高等裁判所函館支部に訴訟を提起し、昭和三十二年一月二十八日原告敗訴の判決がなされ、最高裁判所に上告したが同年七月十二日上告棄却の判決がなされた。原告は更に右事件につき札幌高等裁判所函館支部に再審の訴を提起し、昭和三十三年十一月四日原告敗訴の判決がなされ、最高裁判所に上告したが、昭和三十四年五月十四日上告棄却の判決がなされた。よつて昭和三十四年四月三十日施行された本件各選挙の告示の日及び選挙期日はいずれも右前回の選挙の効力に関する再審の訴につき上告棄却の判決のなされる以前であつて、当時裁判所に訴訟が係属中であつたのであるから、本件各選挙は公職選挙法第三十四条第三項の規定により本来行うことができなかつたものであり従つて無効である。

そこで原告は選挙人として本件各選挙の効力に関して昭和三十四年五月初旬函館市選挙管理委員会に異議の申立をし、同月十三日異議棄却の決定があつたので、同年六月四日被告委員会に対して訴願をしたところ、被告委員会は同年七月二十一日、公職選挙法第三十四条第三項に規定する訴訟が裁判所に係属する間は行うことができない選挙とは同条第一項所定の選挙すなわち再選挙、補欠選挙(長が欠けた場合及び退職の申立があつた場合の選挙を含む)若しくは同選挙を基礎とする増員選挙又は議員、当選人がすべてなくなつた場合における一般選挙に限るものであつて、本件各選挙は公職選挙法第三十三条の規定の適用を受ける任期満了による選挙であるから、前回の選挙について争訟が係属していたとしても、本件各選挙は適法であるとの理由で、訴願棄却の裁決をした。しかし、右訴願裁決は右公職選挙法第三十四条の解釈には何ら触れておらず、同法第二百十三条、第二百十四条、第二百二十条の各規定及び地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律の記定に徴し、右訴願裁決は公職選挙法第三十四条第三項の規定の解釈適用を誤つたものである。よつて右訴願裁決を取消し本件各選挙を無効とする旨の判決を求めるため本訴に及んだ」と述べ、(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告主張の事実中、昭和三十四年四月三十日函館市議会議員及び函館市長の各選挙が施行されたこと、原告が昭和三十四年四月三十日施行された函館市議会議員及び函館市長の各選挙の効力に関し異議申立及び訴願を経て札幌高等裁判所函館支部に訴訟を提起し、右事件の再審事件において昭和三十四年五月十四日上告棄却の判決がなされるまでの主張事実、原告が本件各選挙の効力に関し昭和三十四年五月初旬函館市選挙管理委員会に異議の申立をし、同月十三日異議棄却の決定があつたので同年六月四日被告委員会に対して訴願をし、被告委員会が同年七月二十一日原告主張のような理由で訴願棄却の裁決をしたことはいずれも認める。しかし、本件の各選挙はいずれも議会の議員又は長の任期満了による選挙であつて、任期満了による選挙は公職選挙法第三十四条第一項所定の選挙ではないから、同項所定の選挙に関する同条第三項の規定の適用はない。従つて、昭和三十年四月三十日施行の選挙に関して訴訟が係属中であつたからといつて、本件各選挙が公職選挙法第三十四条第三項に違反し無効であるとする理由はない。しかも同項に「訴訟が裁判所に係属している間」とあるのは再審の訴が係属している場合を含まないものと解すべきであるから、この点からいつても原告の主張は失当である」と述べた。(立証省略)

理由

昭和三十四年四月三十日函館市議会議員及び函館市長の各選挙が施行されたことは当事者間に争いがない。そして右各選挙は議会の議員及び長の任期満了による選挙であることは原告の明かに争わないところである。

ところで原告は昭和三十年四月三十日行われた函館市議会議員及び函館市長の各選挙の効力に関する訴訟が係属中であつたことを理由として、本件の各選挙が公職選挙法第三十四条第三項の規定に違反し無効である旨主張するのであるが、同条第一項は、地方公共団体の議会の議員及び長の再選挙、補欠選挙(第百十四条(長が欠けた場合及び退職の申立があつた場合)の選挙を含む)、又は増員選挙若しくは第百十六条(議員又は当選人がすべてない場合)の規定による一般選挙はこれを行うべき事由が生じた日から五十日以内に行う旨を規定し、同条第三頃は、第一項に掲げる選挙はその選挙を必要とするに至つた選挙について選挙の効力に関する訴訟又は当選の効力に関する訴訟が裁判所に係属している等の場合には行うことができない旨を規定しているけれども、地方公共団体の議会の議員の任期満了による一般選挙又は長の任期満了による選挙について規定する公職選挙法第三十三条には、右第三十四条第三項の規定に類するような何らの規定も設けられていないのであり、しかも右第三十四条第三項の規定の立法趣旨は、同条第一項所定の選挙はすべて、その選挙を必要とするに至つた選挙及びその選挙による当選が有効であることを前提とし、又は逆にその選挙を必要とするに至つた選挙又はその選挙による当選が無効であることを前提とするのであるから、右前提となつた選挙又は当選の有効無効が確定しない間は行うことができないものとする趣旨であると解されるのであつて、任期満了による選挙にはそのような関係は生じないから、右公職選挙法第三十四条第三項の規定を任期満了による選挙にまで準用して前回の選挙について訴訟が係属中であるの故をもつて後の選挙を行い得ないものとする何らの理由もない。原告は右の場合にも公職選挙法第三十四条第三項の規定が適用されるとの主張の根拠として、同法第二百十三条、第二百十四条、第二百二十条の各規定、及び地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律の規定を掲げるけれども、右の各規定の存することは原告の主張を肯定する何らの根拠とならない。

しからば本件各選挙が公職選挙法第三十四条第三項の規定に違反するとの理由により無効であるとする原告の主張は到底採用し難く、その主張を前提とし被告のなした訴願棄却の裁決の取消及び本件各選挙の無効確認を求める原告の本訴請求は失当たること明かであるから、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 羽生田利朝 中村義正 今村三郎)

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